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野田マップ「キル」

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 2008年の初観劇は野田マップ「キル」。
 一階のどセンターでみた。列も真ん中。上手にも下手にもよっていないお席。
 何か人をキルとか、洋服をキルとか、生キルとか、野田さん流の言葉遊びが山ほどあって、それが詩的な世界を作り上げていてどんどん広がって行く。それはいつものこと。例えば、冒頭にある青いオオカミがモンゴルでどう粉塵をあげて疾走しているかなんて長い台詞も、つかこうへいさんが差別された人間の情念を表す時の長い台詞やシェイクスピアが何か哲学的なことを台詞にこめるときの宇宙観と似ているものがあって、そこに上手い役者さんの気持ちも乗っかるから、何か難しい言葉もすんなり気持ち的にはこういうことかって入ってきてしまうマジックが野田さんの世界にはあるんですよね。今回もそうでした。素晴らしかった。
 ネットの感想を読んでいると妻夫木君や広末さんのことを酷評したり余りにも無視していて、きっと酷いんだろうなあと思って見にいいったら、妻夫木君はガスパッチョのCMでやってるようなのとはもちろん違っていた。長年やられているからテレビや映画的な芝居で培ったものは活用しながらも、野田さんのあの究極な肉体を酷使していく世界にきちんと入り込んで逃げずにやっていた。そして、きちんとオーラもあった。
 もちろん、舞台人としてのスキルや上手さは、高田聖子さんや、勝村さんのようなレベルではないかもしれないが、ホントに清々しく、いやすがすがしいっていうレベルでなく、相当のレベルまでやっていたと思う。これが初舞台とは信じられぬ。もちろん野心満々の腹黒いところと清純なところの二面性に引き裂かれるっ青年て感じは、あのさわやかフェースからは感じられなかったけれどね。
 広末涼子。この二代目ぷっつん女優として、すでに頂点は一度極めてしまった感がある非常に微妙なポジションの女優さん。数年前に、筧利夫さんとつかこうへいの世界を青山劇場で見た時は、やべっ!と思ったけれど。いや、今回も広末涼子をかなぐり捨てて挑んでるという感じではなかったけれど、きっと回りの尋常ならざる空気に影響されたんだ。前の舞台と比べると、すごく真摯に野田ワールドに入り込み役に取り組んでいたような気がする。彼女は芝居はうまい。ただ、見ていて前回はつかこうへいの世界から距離感があったような感じがするのだけれど、今回はほれ、すごいです。野田さんの世界の歯車のひとつとしてやる決意をしていたのが分かった。ただ、それでも俺は広末のあのキンキン声が苦手。メゾソプラノとかアルトの艶っぽい声の方が好きなので、差し引いて考えてもらいたいんだけど、広末はホントに素晴らしい女優さんなんだと思いました。感心しました。何しろお二人ともあの難解な台詞がどんどん伝わったよ。
 というわけで、下馬評のお二人がそんなに悪くないとなりまして、おいらとしてはさてと思いながら見ているわけです。で、もう素晴らしい舞台でした。  
 特に山田まりやちゃん。この人の舞台は扉座で見たのが最初なんだけど、どんどん舞台人としての経験を積んで上手くなるし重心が低くなる。今回はまさにアンサンブルといった感じの役だけれど、テレビで何となく大人に文句を言っているグラビアタレント時代が嘘みたいにスゴい。草原の向こうに響くような台詞をきちんと空間に解放する。きっと影ですごいドリョクをしているのだと思う。
 しんぺーさんと中山祐一郎さんは相変わらず存在そのものがずるく上手い。ポロロン!とか、あの衣装。ああああああ、いいなあ勝ち組だよ。
 むしろ、素晴らしい女優であるナイロン100℃の村岡さんの見せ所がない役だったなあと思いました。彼女はいつものように所作や視線が美しい方だったけれど、何しろあの傑作「わが闇」を休んで出たわけで、こうなると村岡さんは「わが闇」にいて欲しかったなあと思ってしまうのです。でも美しかった。美しいといえば、高橋恵子さん。この女優さんは僕が子供の頃からいて、何か色っぽい役ばかりやっていたのに、蜷川さんのところや野田さんのところや舞台人だよなあ。ホント存在しているだけでいい味を出されます。小林勝也さんは、妻夫木君の前の世代を全部背負って出てくるわけで、いやあスゴいです。演じるというよりも生きるという感じでして。というわけでした。

 さらに、美術のアイデアも文句のつけようもなく、舞台の真ん中が凹んでいてそこを向こうから走ってきても走って行っても、大草原の起伏に見えて、うーんモンゴルって感じです。距離感がでるんだよなあ。衣装も良かった。あの質感や感じが一時期のヤマモトヨージや川久保玲のように思えたのはおいらだけかなあ。

 まあ、最初に子供の誕生とか、観光客と一家を対比させたりして、もうそこにはファミリーの血の流れとか、人の生死とか、いろんなことを連想させて普遍的なことをテーマにしたお芝居であることは最初の20分くらいで伝わるわけです。それをどかーんとやってくれるわけでして。ザ感動。
 何か不満はないのか?ってきかれると、
 何でいま「キル」なのかが分からなかった。
 前にやって、もう一度やってみたかったからやったんだよーん。
 普通の演劇人はそれでいいでしょう。
 でも、野田秀樹です。
 劇場から広がる世界感、劇空間が、日常のいまの僕らの時代と世界に発信し共鳴したり、猛打するような作品を作ってくれるのではないのか?
 例えば、「オイル」も「ロープ」も「赤鬼」も時代にきっちし寄り添って共鳴していた。
 新国立劇場のヴェルディのオペラ「マクベス」の演出でさえも。
 この素晴らしい演劇「キル」はモンゴルの草原を走ったジンギスカンたちの幻想のように、劇空間に閉じ込められ、まるで蜃気楼のように客電がついたとたんに終わってしまったのでありました。2時間20分そんな世界を見せてくれただけで満足であることは間違いないのだけれども。

 終演後、楽屋に行き、知り合いの役者さんにご挨拶していたら、中村勘三郎さんと野田さんが仲良くどこかにいらっしゃいました。

  http://keizai.sub.jp
祝ベスト8進出!!!!がんばれ!都立三鷹サッカー部!!!
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佐藤治彦 Haruhiko SATO

Author:佐藤治彦 Haruhiko SATO

さとうはるひこ Haruhiko SATO
経済評論家+α
詳しいプロフィールはこのブログのカテゴリーからプロフィールを選んでごらん下さい。経済や金融を中心に90年代初頭から活動してきました。40代初めにセミリタイアし今は本当にやりたい仕事だけを選んでやっています。また、演劇活動にも力を入れました。台本書きや俳優としての仕事などもお待ちしています。
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