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色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

4/24
 朝はいつものラジオ。その後でローマの本を読む。1時間ほど寝たあと、起きてコーヒー。資料に目を通して単行本の原稿。そして、雑誌の取材も受けた。そうして夕方になった。天気予報では、夜に雨が降るということだったのだけれど、午後には雨が降って、すでにあがっていたので、大丈夫だろうと思って傘を持たずにでかけた。6時をいくらか過ぎたころ、三軒茶屋から田園都市線に乗った。実は、25日に六本木ヒルズでパーティがあるので明日のN響のサントリー定期を振替してもらったのだ。電車は渋谷につくと、そこでいつものように少し停車した。そこから田園都市線は半蔵門線という名前になる。まあ、渋谷の駅にいる間は、どちらでもあるのか、どちらでもないのか分からない。いづれにせよ、乗務員が交代する間、乗客は待つのだ。Oricon_2023800_1_s.jpg
 発車を待っている時に、ネズミ色の背広をきた50歳前後の疲れたサラリーマンが乗ってきた。ネクタイや靴以上にお疲れモードの顔。僕の隣が空いていたので座るとよれよれの鞄から紺色のビニール袋を出した。僕も20代の時には毎日銀行に通い、東京にいるときは朝は満員電車、夜は疲労困憊だったなあと思い出した。それをこの紳士は50歳まで続けているのだ。家族もいるだろう。責任もあるだろう。僕もきっとこの人だって毎日の生活の中で、人間的なものを自然とどんどんはぎ取られ抜け殻のようになっていく。そういうものだ。昨日また誕生日を迎えた。そういったことをもはや否定するつもりもない。
 この紳士を意識の中に入れることができたのは、急いで家を出てきたので、腕時計を忘れていたからだ。N響のコンサートは7時からだ。時間が気になった。もう6時30分は過ぎているはずだ。それだから、ホームを観て、時間の情報はどこかにないかと思ってきょろきょろしていたためだ。そうして、その人が目に入ってきたのだ。ホームのデジタル表示の時計でコンサートの時間には十分間に合うことを確認すると、僕は目を落とす。
 僕は村上春樹の新しい小説で久しぶりにフィンランドにいる。主人公のつくるとクロの再会する場面に戻って行った。残りのページも少なくあと数十ページ。自分の人生を反芻するように世界に戻ろうとした瞬間。
 隣に座ったお疲れモードのサラリーマンが紺色の袋からそれを取り出した。紺色の袋は紀伊国屋の袋だった。そこからピカピカの本が出てきて、表紙を観て、帯を読んで、そしてゆっくりと開いた。本の扉を観ている。で、少し大きめのため息をついた。同じ小説だった。
 何か不思議。さすが100万部。で、このちょっとお疲れモードの紳士も、もうすぐ僕がいま読んでいる小説の世界に飛び込んでいくんだと思ったら何かうれしくなってしまった。 何でそう思ったのかは分からない。
 そして、こんなことするの初めてだけど、ためらいもなく横を向いて声をかけてしまったのだ。
 「面白いですよ」
 その紳士は驚いた顔をして僕の顔をみた。僕は今読んでいる本を少し持ち上げて、その紳士の視界の中にいれた。そしたら、「ああ」といって紳士は笑顔になった。半蔵門繊になった電車は走り出した。
 隣の表参道の駅で降りる時に、その紳士のことをちょっと観たら、もう最初のページは読み終わっていた。疲れた紳士は村上春樹の世界で人間を取り戻しつつあった。
 僕はもっと嬉しくなった。
 コンサートを終えて、僕は来た行程を逆に戻り、スポーツジムにいって、いつものように泳いだ。雨は天気予報通りに降ってきた。100メートル×10本。泳いでいる時に、本はロッカーの中にあったが、頭にそれは残っていて、例えば、つくるは、もっときれいに泳ぐんだろうなあと思ったりした。そして、僕もフィンランドで同じような経験をしたことを思い出した。ヘルシンキの隣の小さな駅で、5月の夜が深く押し寄せる時間に、ひとり30分以上も時間を過ごしたことを思い出した。小説でつくるは、駅を愛している。いや駅の光景を愛している。
 プールからでると、雨は強く降っていて、僕は本だけはぬれないようにと必死にビニール袋の中にいれ、びしょびしょになりながら家へ帰った。
 なんかごきげんなまま、一日が終わり、誕生日にあけた、美味しめのシャブリの残りをグラスに入れて飲んだ。
翌日、朝10時15分頃。リストの無名なピアノ曲をBGMに最後の19節を読み終えた。僕は「巡礼の年」はもっていない。ラザールベルマンもアルフレッドブレンデルも、生演奏を聴いたことがあるのだけれど。
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佐藤治彦 Haruhiko SATO

Author:佐藤治彦 Haruhiko SATO

さとうはるひこ Haruhiko SATO
経済評論家+α
詳しいプロフィールはこのブログのカテゴリーからプロフィールを選んでごらん下さい。経済や金融を中心に90年代初頭から活動してきました。40代初めにセミリタイアし今は本当にやりたい仕事だけを選んでやっています。また、演劇活動にも力を入れました。台本書きや俳優としての仕事などもお待ちしています。
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